昭和40年代頃までだったと思う。
新築の家が棟上げのとき、餅まきといういうものがあった。
大工さんが屋根の上から威勢よく、餅をばら撒くのだ。
その日時を人づてに聞きつけた近所の人たちが、その餅を取ろうと周りに集った。
当時は餅をビニール袋で包装することもなく直接、ばーっと手を差し挙げた人の群れに向かってばら撒かれた。
歓声があがる。
人々はもみくちゃになりながら、我さきに餅を取り合う。
大人の手からこぼれた餅は地面に転がり、泥にまみれる。
それを求めて、小さな子供たちも押し合いへし合い奪いあう。
当然ながら施主の気前のよさで撒かれる餅の数は決まる。
実際には始まりから終わりまで、せいぜい五分かそこらの一瞬のイヴェントだった。
そんな光景が見られなくなって、何年経っただろう。
新型コロナウィルスによる経済破綻への救済策として、日本国民全員は言うに及ばず、日本に在住する外国人にまで一律十万円が給付されるという。
10万円の入った封筒が、ばーっと国民の頭上にばら撒かれるのだ。
その額、ざっと12兆円。
100万円の厚さがだいたい1cmとすると一億円の厚さは1m。
一兆円なら10km。
12兆円で120km。
中小の企業向けにも気の遠くなるような額の給付金が支払われる。
壮観というか、空恐ろしい。
「異次元の金融緩和」「黒田バズーカ」など豆鉄砲のように思える。
大きな大きな歴史の転換点に立っているのは間違いないと思う。
この出口がどんなものになるか、見届けることが出来るだろうか。
来るべきものに備えて、敷地の一画に小さな菜園を作った。
次回の更新は6月2日(火)です。お楽しみに!