老いてなお

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小学生の時から音楽は苦手科目だった。
実を言うと、小中学を通じてずっと通知表の評価は2で通した。
楽譜の読み方などチンプンカンプンで、今でもサッパリだめだ。
大体、半音上がるとか下がるとか、あそこら辺からおかしくなった。
だから楽器の演奏はしない。
その私がどういう風の吹き回しか、昨年あたりからピアノの演奏を聴くようになった。
きっかけは辻井伸行氏の動画を昨年からyuoutubeで視聴できるようになったからだ。
彼が名だたる世界のコンクールで大変な評価を受けていることは知っていたが、
それほど興味はなかった。
やはりYouTubeというサービスは凄い。
彼の情熱ほとばしる演奏を目にして、どうしようもなく「はま」った。
以来、一回は生の演奏を聴きたいものだと淡い希望を持っていた。
ところが程なくして幸福の女神は突如現れた。
ほとんど諦めていた彼のコンサートが宇部で行われるという情報が入ってきたのだ。
早速、チケットを手に入れ開催当日、二月二十日を迎えた。
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私のようなにわかファンには耳なれない曲も多かったが、これほど美しいピアノの音を聞いたのは初めてだった。
ダイアモンドの煌めきのような音だ。
音が光の粒となって会場を埋め尽くした。
コロナ禍のなかにもかかわらず、会場は満席だ。
会場の興奮と拍手に、アンコールを5回も応えてくれた。
いや、6回だったかもしれない。
会場から滝が落ちるような拍手の嵐。
オォーとワーッとが混じり合う雄叫びのような歓声。
この称賛は彼の至高のテクニックだけではなく、彼の情熱的なパフォーマンスに寄せられていたに違いない。

その日は、なんとなく厳かな気持ちで家路についた。

次回の更新は3月30日です。お楽しみに!